大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和29年(ラ)149号 決定 1955年12月28日

抗告人 山川州璋(仮名)

主文

原審判を取消す。

抗告人の名「州璋」を「吉郎」と変更することを許可する。

理由

本件抗告理由は別紙抗告の理由記載のとおりである。

本件記録中の抗告人の戸籍抄本、原審における調査官補の調査報告書、抗告人提出の各疏明書類、並びに当審における抗告人に対する審訊の結果を綜合すると抗告人は大正十三年○月○日生であつて昭和十九年三月○○○○学校を卒業し兵庫県二級建築士の免状を有し現在神戸市○○区○○町○丁目建築請負業○○工務店に主任技術者として勤務しているものであるがその名「州璋」はクニアキと読み右文字についてそのような読方があることは明らかであるが右抗告人の名「州璋」は他人から誤読、誤称、誤記されることが多く難解難読で社会生活上甚しく支障があるところから抗告人は昭和二十八年秋頃から平易な当用漢字の「吉郎」なる文字を通名として使用し現在に至つている事実が認められる。

以上の事実は戸籍法第百七条第二項に所謂名の変更について正当な事由がある場合に該当するものと認めるのが相当であつて本件改名許可の申立を却下した原審判に対する本件抗告は理由があるから家事審判規則第十九条第二項に則り主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松村寿伝夫  裁判官 藤田弥太郎  裁判官 小野田常太郎)

抗告の理由

抗告人は自己の名が特異な為め之を正確に記載される事稀にして常に誤記され其不便不幸を感知し近頃に至り判り易き通称吉郎を使用すると殆んど誤記される事なく其便宜と幸福に浴し居る次第にて殊に現在の州璋では裁判所自身が誤字を使用され居るものにて之亦否定し難き抗告人の不幸不便の実証にも有之につき更に審議相仰度い、本件につき神戸家庭裁判所に於ては辞典によりては州璋はクニアキと読み得るものなるを以つて難字難読と認め難き旨判示あるも他人の名を辞典によりて知り得るが如きは其れ自体難字難読を実証するものにして氏名等にも成るべく当用漢字を用ゆべく国民に要求し居る今日常識にては誤りなく読み書し得る場合稀なる如き抗告人の名はイタズラニ難字難読の名を命名し置くを以つて偉傑の士と認めらるべしとなす旧思想の父の犠牲となつて一生の不便に泣く点御高察賜り原審判を取消し抗告人の名を吉郎に改めることを許可する又は本件を原裁判所に差戻す旨の裁判を求める。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例